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大崎耕土について

大崎耕土とは

大崎地域は「江合川」「鳴瀬川」の流域に広がる野谷地や湿地を利用し、水田農業地帯として発展してきました。

しかし、東北の太平洋側特有の冷たく湿った季節風『やませ』による冷害や、山間部の急勾配地帯から平野部の緩勾配地帯に変化する地形が原因でおこる渇水・洪水などの問題が人々を悩ませています。

厳しい自然環境下で食料と生計を維持するため、「水」の調整に様々な知恵や工夫を重ね発展してきた大地が『大崎耕土』です。

大崎耕土が世界農業遺産に認定されたポイント

厳しい環境のなかで食料を確保していくためには、その地域にマッチした知恵や工夫が必要です。

大崎耕土では冷害や洪水に対応するための「水管理システム」を中心に、「生き物との共生関係」や「農文化」「食文化」「豊かで特徴的な景観」が発展し、それら全体の“つながり”が世界農業遺産認定へのカギとなりました。

農業を支える巧みな水管理システム

大崎耕土は「江合川」「鳴瀬川」の流域に広がる野谷地や湿地を利用し、水田農業地帯として発展しています。

しかし農業を行うにあたり、大きな問題が発生していました。

  • 季節風 「やませ」 による冷害
  • 地形が原因で起きる洪水や渇水

これらを解決するため、およそ江戸時代から大崎耕土を流れる江合川・鳴瀬川の河川流域に約1,300箇所に及ぶ「取水堰(しゅすいぜき)※」や「隧道・潜穴(ずいどう・せんけつ)※」「用排水路」「ため池」「遊水地」が設けられ、現代でも受け継がれています。

※取水堰…河川から農業に使うための水を引き入れるための仕組み
※隧道・潜穴…水管理のために掘られたトンネル

年間を通して行われる被害対策

これらの水調整は、農家の地縁的な結びつきである組織 「契約講 (けいやくこう)」 が基盤となって行われています。

災害対策

①渇水対策
  • 用水の反復利用
  • 通水制限によって水を分け合う番水
②洪水対策
  • 遊水地の確保
③冷害対策
  • 耐冷のための品種改良
  • 保温折衷苗代(ほおんせっちゅうなわしろ)などの育苗手法
  • 栽培期間中の水を利用した管理手法
    (昼間止め水、深水管理、ぬるめ水路)

地形の特徴をとらえた重層的な水管理

地理や気候の特性を考慮しながら、気象災害に応じた複数の用排水管理技術を上流から下流まで連携し、一体的に機能させています。これにより、農業を行う前提となる「水の調整」が巧みに行われています。

6エリアの地形的特徴に合わせた水管理

上流域

河川からの取水施設が多い。取水堰によって河川から水を流し、隧道・潜穴や水路を通して農地に配水します。

中下流域

利用可能な水量が少なくなる地域。丘陵地にため池を多く設置するとともに、番水や反復水の利用で渇水時に対応しています。

多様な生物と共生する水田農業

伝統的な水管理システムが支える水田農業は、多様な生き物との共生関係にあります。

クモやカエルによる害虫の軽減

大崎耕土では、害虫の天敵となるクモやカエルなどに配慮した有機栽培や環境保全米の栽培から害虫被害の軽減が試みられています。

マガンの越冬地としての役割

冬の農地は10万羽を超えるマガンの越冬地としても重要な役割を果たしています。

水田と居久根(いぐね)で生物が循環できる仕組み

大崎耕土に点在する屋敷林「居久根」は様々な樹種で構成され、多様な生き物を支える基盤に。季節によって水田と居久根を行き来して生息している生き物も数多く存在します。

  • 生態系のモニタリング

  • 水路江払い

農業と結びついた伝統的な農文化

農家の営みからは伝統的な農文化も発展してきました。これらの文化は中世時代から現代までの農業と農村社会の移り変わりに適合、その役割を変えながら継承されてきました。

農耕儀礼

厳しい自然条件を生き抜く人々の精神的な支え、「人」と「知恵」をつなぐ役割として豊穣への祈りと感謝。

民間信仰

「水神」「山の神」「稲荷神」など農耕へ関わる神への日常的な庶民信仰。

民俗芸能

豊作や五穀豊穣を祈る「田植え踊り」や洪水の歴史と適応技術を伝えるための「もんきつき」といった伝統芸能。

  • 豊作を祈る雪中田植え

  • 豊かな水の恵みを祈る水神信仰

豊かな農村景観(ランドスケープ)

大崎耕土の水田農業と伝統的な水管理は、水田・水路・ため池・屋敷林「居久根(いぐね)」がつながり、機能的で美しい農村景観(ランドスケープ)を形成してきました。

とくに屋敷林 「居久根」 は農家が水田の広まりとともに生活の拠点を広げる大切なポイントでした。営農と自給自足的な生活の拠点であり、多くの知恵が詰め込まれています。

居久根の役割と知恵
  • 洪水や冬の北西風から家を守る(減災の知恵)
  • 敷地内で身近な野菜や薬草などを栽培(自給の知恵)
  • きめ細やかな水管理や農作業に適した立地、周辺の水田と一体になって害虫の天敵をはぐくむ(営農の知恵)

大崎耕土がはぐくむ食文化

食文化

大崎耕土の人々は、冷害や洪水へ対策する努力を続けながら、米・麦・大豆の三大穀物、地域特有の伝統野菜など多くの農産物を生産してきました。
これらの豊かな原材料をもとに「麹(こうじ)」がつくられ、味噌や日本酒など県内有数の発酵食品産地として豊かな食文化がはぐくまれています。

  • 味噌

  • 酒造

また、大崎耕土の “ごちそう”といえば「餅」 があげられ、宮城県内のなかでも餅をよく食べる地域と言われています。
重要なタンパク質源ともなる食材は、水田で行う水田漁によって得られるもので、巧みな水管理の副産物となっています。

  • もち

  • 凍み豆腐

6次産業化による付加価値化

大崎耕土の農業システムを支えるため、6次産業化の取り組みも活発です。
多様な食産物を農家が単に出荷するだけではなく、自ら加工を行ったり、直接販売・農家レストランの経営などで付加価値を向上させています。